1  |  2  |  3  |  4  | 全部読む

2007年05月17日

はじめに

 河北新報「みんなの健康新時代の矯正歯科
1999年1月~5月(15回連載)

このシリーズは、今から8年前のもので、私が東北大学で助教授をしていた頃に河北新報に連載したものです。少し賞味期限を過ぎた部分もありますが、殆どはこれから矯正歯科治療を受けようと考えている方には、今でもお役に立てる内容ではないかと思います。驚いたのはこのシリーズの反響です。予想以上に多くの方が読まれていたことを知りました。中には、切り抜いてスクラップブックにしていた方もおりました。また、治療を諦めていた方が、矯正歯科治療は何歳になっても可能なのだということを知り、実際に治療を受けて長年のコンプレックスを解消した方もいらっしゃいました。賞味期限が過ぎた部分はいずれ折を見て改訂したいと思っています。

【シリーズ目次】
1. 情報不足
2. 専門医の育成
3. 不正咬合の見方
4. 放置すると
5. 見かけ
6. 子供の治療(前)
7. 子供の治療(後)
8. 成人矯正
9. 外科的矯正
10. 反対咬合の治療
11. 上顎前突の治療
12. 叢生の治療
13. 顔面非対称の治療
14. 学校歯科健診
15. 口腔育成プロジェクト

投稿者 菅原準二 : 15:55 | コメント (0) | トラックバック

2007年05月02日

1.情報不足

  にわかに矯正歯科が慌ただしくなってきた.平成7年4月から,児童生徒を対象にした学校歯科健診の内容が改正され,「歯列・咬合・顎関節」が新たなスクリーニング項目として設けられたからだ(宮城県では平成八8年から実施).わが国の歯科保健活動は,これまで虫歯や歯周病を中心とした疾病対策に重点が置かれていたが,虫歯の減少という疾病構造の変化にともなって,ようやく矯正歯科が目的とする「健全な歯・口腔(こうくう)の育成と生涯維持」に目を向けるゆとりが出てきたと言えそうだ.しかし,一方では,矯正歯科に関する情報が不足しているせいか,学校歯科健診の事後措置をめぐって現場では多少の混乱も生じている.

街で「矯正歯科」の看板を目にした方も多いと思うが,一体何をする診療科なのか,普通の歯科とどう違うのか,実際のところはあまり知られていない.一般の 人々に尋ねると,ほぼ例外なく「格好悪い歯並びをきれいにする歯医者さんのことでしょう」と返ってくる.間違いではないが,どうも,エステティックにかか わる歯科というイメージが浸透しているようだ.事実,見かけを気にしてやってくる患者さんがきわめて多い.ひとえに女性誌などメディアの影響と私たちの情 報提供不足によると思われる.そこで,最新の「矯正歯科」について,皆さんにもう少し知っていただき,診療を受ける際の基礎知識にしていただければと思 い,このコーナーをしばらくお借りすることになった.今回は,シリーズの初回なので,「矯正歯科」の概要を紹介しておきたい.

「矯正歯科」という表示が可能になったのは,独立した診療科目として認められるようになった昭和53年からだ.自由標榜(ひょうぼう)制なので,日 本の歯科医師免許を持っていれば誰でも看板に掲げることができる.しかし,このような専門の診療科目を表示している歯科医のすべてが,高度化している医療 技術に対応できるのかという疑問が生じたため,専門医の資格が必要であるという方向で厚生省などで協議が行われている.

それに関連して,日本矯正歯科学会は,国民に適切な医療を提供することと,医療水準を維持するために,昭和64年から認定医制度を発足させた.しかし,現 行の医療法では認定医や指導医であることを看板などに表示することができないため,患者さんには分かりにくいし,せっかくの制度が十分に活用されていない 状況にある.この問題についても現在検討されているところである.

投稿者 菅原準二 : 17:05 | コメント (0) | トラックバック

2007年05月01日

2.専門医の育成

矯正歯科を標榜(ひょうぼう)している開業医はつぎのように大別される.第1は,大学卒業後に矯正歯科の卒後教育を受けて矯正歯科だけで開業した場合.第2は,矯正歯科の卒後教育を受けた後に,矯正歯科だけでなく一般歯科などとの複数科名で開業した場合.第3は,卒後教育は受けていないものの,矯正歯科に関する何らかの修練を積み,複数科名で開業した場合である.いわゆる「矯正専門医」とは第一の場合を指し,そのほとんどが日本矯正歯科学会の認定医や指導医の資格を取得している.

ところで,矯正歯科の科学的基盤を支えている学問,すなわち「歯科矯正学」は,歴史的には17〜18世紀にイギリスやフランスで芽生え,19〜20世紀にアメリカ合衆国で生物学をベースにした学問として体系化され,第二次世界大戦後に本格的に日本に導入された.ちなみに東北大学においては昭和43年に歯科矯正学講座が新設され,「歯科矯正学」の卒前教育が開始された.さらに,教育スタッフなどの体制が整った昭和55年ごろから「矯正専門医」を養成するための卒後教育も本格的に行われるようになった.

なぜ6年間の学部教育で矯正歯科診療ができるようにならないのか,不思議に思う方もいるかも知れない.しかし,卒前教育では他の課目とのバランスで,「歯科矯正学」の講義や実習時間を十分に獲得することができないため,学部卒業までに基本的な知識と診断能力を身につけさせるのが精一杯であり,本格的な教育は卒後教育に委ねられているのが現状である.卒後教育コースは,公的に設置されている大学院(4年制)とはまったく別で,各大学の歯科矯正学講座が自主的に設けている「私塾」のような存在である.東北大学では,全日・3年制の卒後教育コースを実施しており,大学院生も含めて,すべての新入医局員がこのコースを履修する仕組みになっている.かなり厳しいカリキュラムの中で臨床と研究の研修を続け,最後の認定試験を経て初めて,若き矯正歯科医が誕生する.大学に入学してから実に10年目の春のことである.一般的には,その後さらに数年間にわたり,大学病院や矯正歯科医院などで多くの臨床経験を積み,やっと「矯正専門医」として独立することが可能になる.前に述べた日本矯正歯科学会・認定医の資格条件の中にも,大学などの指定研修機関で5年以上の臨床経験を積んでいることが義務づけられている.

地域社会において矯正歯科の中核として働いている「矯正専門医」が,このようにして育成されていることはあまり知られていない.

投稿者 菅原準二 : 14:03 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月30日

3.不正咬合の見方

他の診療科と同様に,矯正歯科においても分類が重要である.症状を分類することが診断や治療方針の基盤になっているからだ.

矯正歯科の主な診療対象は「不正咬合(ふせいこうごう)」である.これは,「上下の歯列をかみ合わせた時の位置関係にズレがある状態」を意味する.かみ合わせのズレは多様であり,それぞれ治療の進め方や難しさも異なることから,まず「不正咬合」の分類から知っていただきたい.

矯正歯科医は,患者さんを前にした時,「はい,口を開けて」とは言わない.まず,口を閉じた状態で,顔の形や口元のバランスを観察することから始める.その患者さんの「不正咬合」が歯並びだけの問題なのか,それとも歯列を支える顎骨の不調和によるものなのかを見きわめるためである.顔面骨格は三次元構造体であるが,顔の形を側面と正面に分けて評価すると理解しやすい.「不正咬合」の診断や治療にかかわる重要な情報は,側面顔(横顔)により多く含まれると思うので,ここでは側面顔について述べる.

細部にまでこだわれば,人の側面顔は十人十色で分けようがないが,大まかには前後および上下的バランスによって9つのタイプに分類される.すなわち,顎骨の前後的バランスによって「下顎が突出している(下顎前突),普通,後退している(下顎後退)」の3タイプに分けられる.さらに,顔の上下的バランスによっても,「顔が長い(長顔),普通,短い(短顔)」の三タイプに分けられる.それら3×3の組み合わせによって9タイプの側面顔が成立するわけである.

患者さんの側面顔がどのタイプに分類されるかが明らかになれば,口の中を見なくとも,かみ合わせの状態は想像がつく.前後的バランスが「下顎前突」タイプでは「反対咬合(受け口)」に,「下顎後退」タイプでは「上顎前突咬合(出っ歯)」になる確率が高くなるし,上下的バランスが「長顔」タイプでは「開咬(奥歯をかみあわせても上下の前歯が重ならず隙間があく)」を,逆に「短顔」タイプでは「過蓋咬合(上下の前歯が過度に深く重なる)」を示す傾向が強まるからだ.

このような見方にしたがえば,「正常咬合(良いかみ合わせ)」の多くが,顔面骨格の前後的および上下的バランスがともに普通タイプかそれに近いという条件下で成立することも納得できるであろう.つまり,「不正咬合」の見方は,かみ合わせのズレだけにとらわれるのではなく,歯列を支える顔面骨格のバランスに問題がないかどうかを見きわめることがポイントだ.

投稿者 菅原準二 : 14:12 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月29日

4.放置すると

矯正歯科の必要性を理解するためには,不正咬合を放置した場合,将来どのような問題が生じるのかを知ることが早道である.このことに関連して,最近の学会で興味ある研究報告があった.

厚生省と日本歯科医師会が推進している「8020(ハチマルニイマル)運動」についてはご存じの方も多いと思うが,「80歳まで長生きして,健全な20本の歯を残そう」というキャンペーンである.東京都文京区歯科医師会で8020達成者(52名)のかみ合わせを調査したところ,達成者のすべてが顔面骨格のバランスに問題がなく,ほとんどが正常咬合(良いかみ合わせ)で,反対咬合は皆無であったことが明らかになった.

全国的な調査ではなく,対象者の口腔衛生知識が現在とは異なる世代であることなどから,これを普遍的な事実として受けとめるのは早計であるにしても,注目に値する.長期にわたって歯を健全に維持するためには,顔面骨格のバランスに問題がなく,かつ正常咬合を有していることが必要条件であることを暗示しているからである.

正常咬合であることによって,一本一本の歯に与えられた本来の機能を発揮することができるし,そしゃく時の食物の流れや唾液による自浄効果が高いことも明らかである.もちろん,歯ブラシで口の中を清潔にすることも容易である.また,顔面骨格のバランスが整っていることが,そしゃくや発音のために下顎を動かす筋肉(そしゃく筋)や,歯列を内外側から支える舌と表情をつくる筋肉(表情筋)の健全な働きと深く関連している.歯の長期維持のためには,システム全体が正しく機能していることが重要だ.

一方,不正咬合を放置した場合,特定の歯に必要以上の負担を強いることになるし,食物や唾液の流れにも乱れが生じて自浄作用が妨げられ,歯や口の清掃もままならないことが多い.さらに,歯並びやかみ合わせに乱れがあるために虫歯や歯周病などの誘因にもなるし,わずらった場合に正しく治療することも難しくなる.さらに,顔面骨格のバランスに著しい不調和をともなっていれば,そしゃく筋,舌,表情筋に正常な働きを求めることは無理な注文である.不正咬合の程度,虫歯や歯周病に対する感受性にもよるが,歯を駄目にしてしまうリスクが高いと考えられる.

「歯が駄目でも義歯(入れ歯)があるじゃないか」という言葉をよく耳にする.本質的には同じ意味なのに,「足が駄目でも義足があるじゃないか」とは誰も言わない.新時代に向かって,このあたりの健康意識やパラダイムを変えて行く必要があろう.

投稿者 菅原準二 : 15:13 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月28日

5.見かけ

「不正咬合を放置しておくと,歯が長もちしませんよ」とか,「そしゃくや発音などが正常に機能しませんよ」と言われて矯正治療を受けようと思う人は,実は少ない.不正咬合は,突然そうなるのではなく,時間をかけてゆっくりでき上がるため,そしゃくや発音にかかわる障害なども周囲の組織器官によってそれなりに補償され,不具合を不具合と感じることがないからだ.つまり,実感がないのである.

患者さんを矯正治療に駆り立てるのは,多くは「容貌」すなわち「見かけ」の問題だ.阪神大震災において,入れ歯を忘れて飛び出し,壊れた家に戻った人の多くは,前歯の入れ歯を忘れた人であったという話しを耳にした.奥歯の入れ歯がなくとも食べることは何とかできても,前歯がないという格好悪さには耐えられなかったということらしい.現代の日本人は極限状況においても,「見かけ」を大切にしているのである.その良し悪しを問題にしているのではない.病いに対する人々の思いや受けとめ方は,時代,文化,民族,性,世代などによって異なり,かつ,医療サイドがいくらあがいても,簡単に操作できるものではないからだ.

「眼はその人の心の状態を語り,歯はその人の生活の状態を語る.人はまったく見かけによる」とは,作家・柳美里の言葉であるが,そういう時代に私たちは生きているようだ.そして,このことを裏付けるように,東北大学文学部・仁平義明教授は,次のような報告をしている.大学生に「日本社会で,容貌など身体的外見によって,社会的に有利になったり不利になったりすることがあると思いますか」という質問をしたところ,「大いに」や「ある程度」という肯定的な回答が男性では約93%,女性では約97%に達していたそうだ.昔は,男性は「見かけ」を気にしないことが美徳とされていたが,現代社会では男女を問わず「見かけ」を気にするし,それで差別を受けたくないと感じているようだ.しかし,そのような社会的風潮が,最近問題になっている「醜形恐怖症」(容貌に極端に自信を失い,それを気にするあまり社会生活にも支障をきたしてしまう精神障害)を生み出していることには注意が必要だ.

新時代の矯正歯科には,このような背景を十分に理解した上で,患者さんの気にする「見かけ」の問題を解決し,同時に「歯の長期維持」のためのゴールを達成することが求められている.幸いなことに,矯正歯科では「見かけ」を良くして,歯の長期維持や口の機能向上を図ることは,見事に両立する.

投稿者 菅原準二 : 15:17 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月27日

6.子供の治療(前)

「子供の矯正治療」の開始時期や方法をめぐって,一部論争が続いており,必ずしも共通認識が得られているわけではないが,ここでは,基本的な考え方について述べる.

「子供の矯正治療」に関する第1のキーワードは「顔の成長」である.人の顔は,皮膚や筋肉などの軟らかい組織と,骨や歯などの硬い組織によって構成されている.矯正歯科においては,顔面骨格を構成する上で主役を演じている顎骨(がっこつ)がとくに重要だ.顎骨には,頭蓋骨にしっかりと結合している上顎骨(上アゴ),そして,筋肉などによってつり上げられていて様々な機能運動をつかさどる下顎骨(下アゴ)がある.これらは,身長などの全身成長と同様に,思春期に著しい成長をとげて大人の顔に近づく.しかし,問題は上顎骨と下顎骨の成長の仕方が異なることと,これらの成長に著しい個体差があることだ.一般的に,上顎骨は思春期のピーク(身長が最も伸びる頃,女子で11〜12歳,男子で13〜14歳)を過ぎると成長がほぼ止まるのに対して,下顎骨はその後も成長を続け,女子で16〜17歳,男子で18〜19歳でほぼ終了する.しかし,患者さんの中には早熟傾向(成長のピークが早い)や逆に晩熟傾向(成長のピークが遅い)を示す子もいるし,顎骨が異常な成長を示す子もいるなど個体差が著しい.不正咬合が顎骨のバランスに左右されることはすでに述べたが,「子供の矯正治療」の難しい点は,このように個体差の著しい「顔の成長」を分析し,予測しながら治療を進めなければいけないところにある.一旦良くなったと思った不正咬合が,その後の顎骨の成長で再発することが珍しくないからだ.

2のキーワードは「長期管理」である.矯正治療の結果は,厳密には「顔の成長」が止まるまで分からないというのは,矯正歯科の常識だ.そもそも顎骨のバランスに問題のある患者さんはもとより,そうでない場合でも,成長に伴って不測の事態が発生することが少なくないからだ.例えば,第二大臼歯が思わぬ方向に出てきたり,智歯(第三大臼歯)がせっかく整った歯列をくずし,口やアゴの機能にまで悪影響を及ぼすこともあるからだ.そのようなことを考慮し,私たちは,すべての患者さんと20歳までお付き合いをし,20歳の時点で,健全なかみ合わせを生涯を通して維持できる環境が備わるように対応したいと考えている.患者さんおよび親御さんとの信頼関係に基づいた長いお付き合いのことを「長期管理」と呼んでいる.

投稿者 菅原準二 : 15:18 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月26日

7.子供の治療(後)

3のキーワードは「治療時期の分割」でである.特に,下顎前突のように骨格に問題があるような場合には,思春期前に行う「第1期治療」と思春期後の「第2期治療」に分割して行うことが重要だ.これは,①著しい個体差があり,かつ予測が難しい「顔の成長」に確実に対応する,②患者さんの最小の負担(時間的,経済的,身体的)で,最大の効果を得る,③患者さんのライフステージを考慮して,長期維持が可能な健全なかみ合わせを育てる,という考え方に基づいている.

「第1期治療」の開始時期は,一般的には上下前歯の永久歯が四本ずつ出そろう頃(7〜9歳ごろ)が適切だ.その目的は,不正咬合の進行を抑え,その成長段階での健常像にできるだけ近づけておくことである.治療期間は1年前後を目安にするが,遅くとも中学生になる前に終了することが望ましい.「第1期治療」の注意点は,患者さん自らの意志によって始める治療ではなく,ほとんどが親の動機づけでなされることだ.したがって,「長期管理」によって最終目標を達成するためには,治療に飽きたり,嫌気がさすことがないように注意が必要だ.

「第1期治療」後は,再発を防ぐ処置を施しながら,数カ月の通院間隔で口の衛生状態や成長の様子を見るための「観察」を続ける.そうすることによって良いかみ合わせが長く維持されることが理想的である.私自身は,中学生の時期はできるだけ矯正治療を避け,「観察」にあてたいと考えている.一般的に,中学生は「ムカつく」「キレる」という言葉に象徴されるように,思春期に入って自我に目覚め,かつ高校受験という重圧のもとに置かれる大変な年代である.当然,治療への協力度も低下する.加えて,食べ盛りであるため,頻繁な摂食によって口の衛生状態が悪化するなど,矯正治療を行うにはリスクが高すぎるからだ.しかし,不正咬合のタイプによってはこの時期の旺盛なアゴの成長をうまく利用したい場合もあるので,実際には専門医によるケースバイケースの最終判断が必要だ.

一方,「観察」の間に不正咬合が再発したり,新たな問題が派生する場合もある.「第2期治療」は,そのような患者さんに対する仕上げの治療に相当する.開始時期は「顔の成長」の見きわめがつき,自分で治療の意義や必要性を十分に理解できるようになる高校生以降が望ましいが,不正咬合のタイプや成長などの個体差によって多少変動する.「第1期治療」と同様に1〜2年の治療期間が必要となる.この「第2期治療」が終われば,機能的なかみ合わせや整った口元などの条件を兼ね備えた20歳のゴールは目の前だ.

投稿者 菅原準二 : 15:19 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月25日

8.成人矯正

前回は,不正咬合を子供のうちに治療することが理想的であると述べた.しかし,親の健康意識や経済的および時間的な問題などによって,適切なタイミングで治療を受けることができない方も沢山いる.あるいは,大人になってから不正咬合が気になり始めるという方も少なくない.そのような患者さんのために,次善の策として「大人の矯正治療」すなわち「成人矯正」が行われている.

かつて,矯正治療は子供の頃にしかできないものとあきらめられていたが,診断や技術が飛躍的に進歩した現在では,歯やそれを支える組織(歯周組織)が丈夫であれば例え高齢者であっても治療が可能になった.

「成人矯正」を「子供の矯正治療」と比較してみると,利点としては,①「顔の成長」が終了している分,治療後の予測が立てやすいこと,②患者さん自身が治療の動機を持っていることが挙げられる.一方,欠点は,①歯周病や顎関節症(がくかんせつしょう)など他の疾患を伴っていることが多い,②治療が大がかりになる,③歯が動きにくい,④矯正装置の外見に対するこだわりが強いことなどである.このように「成人矯正」には利点よりも欠点が多く,治療上さまざまな配慮が必要であるが,その目的は,口元のバランスを整えて健全なかみ合わせを獲得し,患者さんにできるだけ質の高い生活をおくっていただくことであり,「子供の矯正治療」のそれと変わらない.確かに,理想的な矯正治療の時期を逸してはいるものの,それでも患者さんが受けるメリットは大きい.

虫歯や歯周病が進行して歯を失い始め,さらにかみ合わせやアゴの機能にも著しい変調をきたして入れ歯を作ることもできず,ものが満足にかめなくなった状態を「咬合崩壊」と呼ぶ.一般の歯科医院では治療が不可能で,歯学部附属病院・矯正歯科に紹介されてくる「咬合崩壊」の患者さんが増えている.30〜50歳代の方がほとんどだが,これまではどこで治療してもらえるのか分からず,適切な対応を受けていなかった患者さんたちである.診察して驚くことは,このような「咬合崩壊」の背景に,子供の頃からの不正咬合が関与している場合が実に多いことだ.不正咬合の終末像とも言えそうだ.「8020」達成者の中に不正咬合がほとんど含まれていなかったことにも通じるものがある.

しかし,不幸にしてひどい「咬合崩壊」をきたした患者さんに対しては,歯学部附属病院では,複数の診療科の専門医やスタッフによる「チーム医療」という診療体制で臨んでいるのであまり心配には及ばない.

投稿者 菅原準二 : 16:54 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月24日

9.外科的矯正

不正咬合の中で,歯や歯列を支える顎骨(がっこつ)の形やバランスに問題があり,しかもその程度が特にひどい場合を「顎変形症(がくへんけいしょう)」と呼ぶ.その代表例には,下顎が著しく大きな下顎前突や,下顎が著しく小さな上顎前突がある.いずれも通常の矯正治療だけで改善することは極めて難しい.その様な患者さんの顎骨のゆがみや大きさを外科手術によって修正し,同時に矯正治療によって歯並びとかみ合わせを整える治療法のことを「外科的矯正」と言う.例外を除き,顔の成長が終了した成人に対して行われる.成長による再発を避けるためだ.また,顎骨の中や周囲には重要な神経や血管が走っていることと,顔に傷を残さないために口の中ですべての操作が行われることから,手術は特別のトレーニングを積んだ口腔(こうくう)外科医が担当する.そして,全体の診療は口腔外科医と矯正歯科医(専門医)との「チーム医療」で進められる.

顎骨の手術と言われても,今一つぴんと来ないかも知れないが,「外科的矯正」は以下のような手順で進められる.①検査結果に基づいて治療のゴール(設計図)を作成する.②ゴールにしたがって上下の歯並び(歯列のかたち)を矯正する.③特殊な手術器具によって顎骨を切り離す.④切り離した骨をゴールの位置まで移動して金属プレートなどで固定する.⑤安静にして骨が自然につながるのを待つ.⑥リハビリテーションを行って,そしゃく筋や舌などを新しいかみ合わせに順応させる.⑦かみ合わせの細部調整を行い,口の機能に問題がないことを確認して矯正装置を外す.⑧再発を防止する処置を施し,かみ合わせの管理を定期的に続ける.

手術時間は「顎変形症」のタイプによっても異なるが,下顎だけであれば1〜2時間,上・下顎骨の同時手術でも3〜4時間で終了する.全身麻酔で行われるため,手術に伴う痛みを感じることはない.また,低血圧麻酔を用いているため出血量も少なく,輸血が必要になることは極めてまれである.約3週間の入院を必要とするが,患者さんにとっての最大の忍耐は,手術後の約2ヶ月間は普通の食事がとれないことだ.

「顎変形症」の場合,容貌の問題はともかく,そしゃくや発音などに著しい機能障害を伴うことと,歯を失ったときに入れ歯などでの修復が非常に難しいことから,「咬合崩壊」に陥ってしまうリスクが特に高い.そのため,平成2年から「顎変形症」の「外科的矯正」に健康保険の給付が認められるようになった.

「外科的矯正」は,現代の矯正歯科では欠かすことのできない治療法になっている.

投稿者 菅原準二 : 16:55 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月23日

10.反対咬合の治療

不正咬合の矯正治療について,少し具体的に説明してみたい.まず最初に取り上げるのは「反対咬合」である.これは俗に受け口と呼ばれ,文字どおり上下の前歯が通常とは反対にかんでいる状態を表している.程度がひどくなれば,前歯で咬み切れない,発音がうまくできない,唇が閉じにくいなどの機能的な障害を伴うようになる.

反対咬合の治療に際しては,顎骨の不調和の有無を見極めることが重要だ.それによって治療の難しさや進め方が異なるからである.

まず,顎骨に問題がない場合は,治療は比較的容易である.前歯が生える時に何らかのきっかけで方向が変わり,反対咬合になった可能性が高いと考えられるからだ.このタイプに属する乳歯の反対咬合は,前歯の交換期にかなりの割合で自然に改善する.治療法としては,主にマルチブラケット装置(個々の歯の表面に接着剤でつける金属製やセラミックス製の数㍉角の小さな装置)という口の中の装置だけを用い,形状記憶合金などでできたワイヤーの弾性を利用して上の前歯を外側に動かす方法が一般的だ.しかも,短期間で改善し,再発の危険性も低い.子供の場合には,思春期前の第1期治療だけで良い結果が得られ,思春期後の第2期治療を省略することも少なくない.

一方,上顎が小さい,下顎が大きいなど,顎骨に問題がある反対咬合は「下顎前突」とも呼ばれ,その程度がひどくなるにつれて治療の難しさも増す.遺伝的傾向が認められることが多く,乳歯から永久歯に代わる時に自然に良くなることはまずない.子供の場合には,第1期治療において,口の中だけではなく外につける装置も併用して,顎骨のバランスを整えながら反対咬合を改善する方法がとられる.もし,その後の成長観察期に再発した場合には,第2期治療においてマルチブラケット装置を用いて細部にわたる修正が行われる.なお,患者さんには敬遠されているが,第1期治療で用いられる口の外につける装置としては,上顎の成長を促すための前方けん引装置(上顎を前に引き出すようなゴムの力を伝えるキャッチャー・マスク様の装置)が効果的である.下顎骨の成長を抑えるために用いられていたチンキャップ装置(下顎を後退させるようなゴムの力を伝える帽子型の装置)は,以前ほどは使われなくなってきている.また,顎骨の不調和が極めて著しく,「顎変形症」の域に達している子供に対しては,あえて第1期治療は行わず,顎骨の成長が停止するのを見届けた上で,外科手術によって上顎を前に出したり,下顎を後退させるなどの「外科的矯正」を行うのが確実な方法だ.

投稿者 菅原準二 : 16:56 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月22日

11.上顎前突の治療

「上顎前突」とは俗に言う出っ歯のことで,上の前歯が突出したかみ合わせのことを意味する.異常が一目で分かる反対咬合と異なり,上顎前突は前歯の突出の程度によって正常咬合と区別するため,程度がひどくなければ患者さん自身が異常を認識することは難しい.

上顎前突は,①顎骨には異常がない,②上顎骨が大きい,③下顎骨が小さい- という三つのタイプに大別されるが,それぞれのタイプによって治療の進め方が異なる.

まず①の場合,子供の患者さんに対してはヘッドギアと呼ばれる顎外固定装置(首や頭の後部を支えにして上顎の大きゅう歯を後方移動させるようなゴムの力を伝える装置)を短期間(半年前後)用いた後,マルチブラケット装置によって上の歯を奥歯から順に後退させる第1期治療が行われる.その後の安定性はおおむね良好で,第2期治療を省略することも少なくない.一方,成長が止まった患者さんに対しては,そのような方法では効果が望めないことから,通常は,犬歯の後ろにある左右の小きゅう歯を抜いて隙間を設けた後に,マルチブラケット装置を用いてその隙間に向かって前歯を後退させる治療が行われる.

次に,②上顎骨が大きいタイプの場合,子供については①のタイプと同様にヘッドギアを最初に用いる.しかし,その目的は大臼歯の後方移動だけではなく,上顎骨全体の成長を抑制することであり,比較的長期間(1〜2年)を要する.そして,顎骨のバランスが整ったところでマルチブラケット装置を用いてかみ合わせの調整がなされる.その後,成長などに伴って後戻りを生じることもあることから,第2期治療を考えておく必要がある.成人に対しては,通常は①のタイプと同様の治療が行われるが,程度が著しい場合には「外科的矯正」によって上顎骨全体あるいは前歯部を一塊として後退させる必要がある.

最後は,③の下顎骨が小さく,相対的に上顎前突を示すタイプである.子供の場合,第1期治療で機能的矯正装置(下顎骨の成長を促すためのプラスチックとワイヤーで作られた装置)という取り外し可能な装置が用いられることが多い.それ以後は②のタイプと同様の処置になるが,下顎骨の残りの成長を有効に利用するために,第2期治療を早めに開始することもある.また,年齢に関係なく,下顎骨が著しく小さな場合には,舌根が沈んで上気道が閉ざされ「睡眠時無呼吸症候群」という睡眠障害を伴っていることもある.その様な患者さんに対しては,「外科的矯正」だけではなく,最近では「仮骨延長法」(下顎骨を切り離し,一定の期間をおいてから骨片を機械的に牽引延長する方法)によって下顎骨を大きくする技術も導入されている.

投稿者 菅原準二 : 16:57 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月21日

12.叢生の治療

「叢生(そうせい)」とは,歯が草むらのように入り乱れて並んでいる状態を表現した専門用語で,俗に乱杭歯(らんぐいば)とも呼ばれ,八重歯もその一種である.これまで述べてきた反対咬合や上顎前突など,上下の顎骨の不調和による不正咬合とは異なり,「叢生」は顎骨と歯の大きさの不調和から生じる歯列の不正である.「叢生」の問題点は,程度がひどい場合には,虫歯や歯周病を誘発するばかりでなく,一旦それらを患うと治療に支障をきたし,進行を食い止めることが難しくなることだ.「叢生」の治療法について述べる前に,その背景に少し触れておきたい.

人類の祖先が地球上に現れてから4〜5百万年,現代人につながるホモ・サピエンスが出現してからでも15万年が経過した.そもそも猿人や原人の顎骨には,32本の永久歯が整然と並ぶゆとりがあったが,現代人においてはその様な人は少なく,第三大臼歯(親不知歯)を除く28本すら並びきらなくなっている.軟食や高カロリー食など現代食文化の影響を受けて,顎骨が小さくなっているとも,歯が大きくなっているとも言われている.事実,私たちの学校歯科健診データでも小学生の30%,中学生の40%,高校生の50%に「叢生」が認められている.

 「叢生」の治療法は,大きく分けて二つしかない.「叢生」を三人がけのソファーに四人も五人も座っている状態に例えれば,ソファー(顎骨の歯槽部)を大きくして全員が座れるようにするか,あるいは座る人数(歯の数)を制限するかのどちらかである.前者については,拡大装置(ワイヤーの弾性やネジなどを利用して歯列の幅や奥行きを拡げる装置)を用いて,第三大臼歯を除く全ての永久歯を収容できるようにする方法が代表的である.後者には,いずれかの永久歯(上下の第一小きゅう歯が最も多い)を抜いて,残りの永久歯をマルチブラケット装置によって整然と並べる方法がとられる.どちらを選択するかは,「叢生」のひどさばかりでなく,顎骨や口元のバランス,患者さんの年齢-などを考慮した専門的な判断に委ねられる.

「叢生」の第1期治療(思春期前)では,拡大装置などを用いて歯槽部を大きくする治療法を優先し,永久歯を抜くことはできるだけ避けるようにしている.一方,第2期治療や成人矯正においては,一般的には抜歯の可能性が高くなる.しかし,前にも触れた「仮骨延長法」などの先端技術を利用することによって,成人の顎骨であっても大きくすることが可能になりつつあることから,将来は抜歯をしない「叢生」の治療が当たり前になるかも知れない.

投稿者 菅原準二 : 16:58 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月20日

13.顔面非対称の治療

厳密に言えば,顔が完全に対称形をしている人はいない.ここで言う「顔面非対称」とは,下顎骨が明らかに左右どちらかに曲がっていたり,あごの筋肉の大きさが左右で著しく異なっていて,顔が非対称形を呈している患者さんのことを指している.口の中では,下顎骨のゆがみや偏りに一致して,下顎の歯列全体が左右どちらかにずれたかみ合わせをしているのが一般的な特徴である.しかも,これらの症状は反対咬合や上顎前突など,他の不正咬合と複合している場合が多い.「顔面非対称」においては,見かけ上の問題もさることながら,非対称度が強くなるにつれて「顎関節機能障害」(顎関節症の一種で,口の開け閉めの際に痛みがあったり,ガクガクとかボキボキという雑音がする,口が開きにくい- などが主症状)を伴う頻度が高いことが最近の臨床研究で明らかになっている.

私たちの学校歯科健診データでは,軽度のものまで含めれば実に約20%もの児童生徒に「顔面非対称」が認められている.「顔面非対称」をここであえて取り上げた理由は,発症頻度が高いこと,顎関節機能障害との関連性が疑われること,見過ごすと治療が大がかりになる可能性があること - などによる.

「顔面非対称」の原因は様々で,①先天性異常,②出産時の外傷,③後天的な異常成長,④片側でのそしゃく癖,⑤かみ合わせの不調,⑥顎関節機能障害- などが挙げられている.「顔面非対称」の治療は,これらの原因を考慮して決定する必要がある.まず,最初の①②③が原因の場合,下顎骨の左右の大きさや形が異なるだけでなく,上顎骨や頭の骨にまで変形が及んでいることが多い.子供の頃に成長が遅れている部分を大きくする試みがなされているが,未だ一般的ではない.現在のところ,顎骨の成長が終息するのを見届けてから「外科的矯正」によって改善するのがより確実な方法だ.

一方,残りの④⑤⑥が原因と思われる「顔面非対称」は発症頻度が比較的高く,かつ早期に対応することで抑制および予防することができるタイプでもある.これらの原因の中で,最近注目されているのが,成長期に発症した片側性の顎関節機能障害が「顔面非対称」を引き起こすのではないかという学説である.下顎骨の成長は下顎頭(下顎骨の後上端に相当し顎関節の一部を構成)の軟骨部で最も旺盛である.下顎頭を保護するクッションのような役目を果たしている関節円板が,何らかの原因でずれたり損傷を受けて顎関節機能障害をきたすと,片側の下顎頭の成長だけが劣ってしまう危険性があるからだ.

早期に対応するためには,学校歯科健診でのスクリーニングが重要である.

投稿者 菅原準二 : 17:37 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月19日

14.学校歯科健診

平成七年から,学校保健法の一部改正に伴い,従来の検査項目に「歯列・咬合(こうごう)・顎(がく)関節」が新たに加わった.

日本学校歯科医会の指針では,「歯列・咬合」の健診にあたっては,将来,口の機能に重大な支障をもたらす恐れのある不正咬合をスクリーニングすることとし,かつ,それが矯正治療の勧告や誘導にならないように注意すべきであるとしている.

学校歯科医は,このような指針に従って健診をしているが,将来,重大な支障をきたすか否かの判断には,高度の専門的能力が要求される場合もあるため,健診結果にバラツキがあることが指摘されている.このような問題の解決を支援するために,日本矯正歯科学会・学校歯科保健委員会で協議を重ねている.

また,保護者には不正咬合と虫歯の健診結果が一緒に知らされている場合が多いので,不正咬合の健診結果も治療勧告のように思われている可能性がある.では,それがなぜ治療勧告に結びつかないように注意すべきなのだろうか.これには「顎変形症」および「口唇裂・口蓋裂」以外の矯正治療に健康保険が適用されていないという事情が配慮されているようだ.矯正治療への健康保険の給付については,現在,厚生省および学識経験者を中心に研究組織を構成して検討がなされている.

さて,今年も学校歯科健診の季節がやってきたが,その結果,歯並びやかみ合わせに“異常あり”という知らせを受けた場合,どうすべきかについて少し述べておきたい.

最も大事なことは,“異常あり”とされたかみ合わせには,どのような問題点が含まれ,どのようなリスクが考えられるのかについて詳しく知ることである.そのためには,①かかりつけ歯科医(一般歯科医)の診察を受け,必要があれば矯正専門医や歯学部付属病院を紹介してもらう.②特定のかかりつけ歯科医がいなければ,歯学部付属病院で診察を受け,必要に応じて矯正専門医を紹介してもらう.③直接矯正専門医の診察を受ける- などの選択肢がある.ただし,矯正専門医不在の地域では,一般歯科医が矯正専門医と連携して診療にあたっている場合もあるので,かかりつけ歯科医に相談してみるとよい.また,医療機関によって初診料や相談料に違いがあるので,事前に確認しておくことが必要だ.

さらに,矯正治療を受ける際の注意点として,治療方針や治療費などについて詳しく説明を受け,十分に納得した上で治療を受けることが大切である.昨今ではインフォームド・コンセントやセカンド・オピニオン(他医の意見)を求めることは「患者さんの権利」として認められており,誰にも遠慮はいらない.

なお,日本矯正歯科学会ではホームページを開設し,全国の認定医名などを公開しているので,参考にされるとよい.

投稿者 菅原準二 : 17:38 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月18日

15.口腔育成プロジェクト

シリーズの最終回にあたり,東北大学歯学部付属病院において新時代に向けた臨床教育モデルとしてスタートした「口腔育成プロジェクト」を紹介しておきたい.

前にも触れたが,厚生省と日本歯科医師会が推進している「8020(ハチマルニイマル)運動」は,80歳で20本の歯を残そうというキャンペーンである.そこには,「一生自分の健康な歯で食べることができるようにしよう」という歯科保健活動の本来的な意味が込められている.しかし,現在は51歳で20本,80歳でわずか4本しか残っておらず,目標値にはほど遠い状況だ.

「年をとったら歯は抜け落ちるもの」「歯科とは虫歯などの疾患にかかってから世話になるところ」と思っている人は,国民の中ではまだ多数派を占めているであろう.8020を意義あるものと真剣に考えるのであれば,これらの国民的認識を変える必要がある.と言っても,これはさほど大げさなことではない.現代歯科学の世界水準では,虫歯や歯周病を予防して一生自分の歯で食べることは絵空事ではなく,実現可能なものになっていることを知っていただくだけでよいからだ.以下に述べる「口腔育成プロジェクト」は,まさにこのような認識を原点にすえ,さらに歯の長期維持を妨げる恐れのある不正咬合への対応をも組み入れた総合戦略である.

「口腔育成」とは,1997年に東北大学で生まれた用語で,「子供たちの口腔システム全体を対象に,その健全な機能とかたちを生涯にわたって維持することができるように,予防を主体とした長期管理を行い,同時に子供たちの口や歯に対する保健意識をはぐくむこと」を意味している.具体的には,次のような目標を設けている.①乳歯列から管理を開始し,20歳までに虫歯や歯周病がなく,健全な歯列やかみ合わせを備えたゴールを達成する.②生活環境をも視野に入れた管理を行う.③治療中心ではなく,ケアをより重視した長期管理を進める.④虫歯や歯周病に対する感受性を調べ,個別に科学的予防策を施す.

これまで,子供たちの口の疾患に対しては,主に予防歯科,小児歯科,矯正歯科による独立分業制の治療や管理が行われてきた.「口腔育成」では,虫歯や不正咬合の有無に関わらず,全ての子供たちの口腔全体を健全に育成するためのチーム医療を目指し,同時に,そのような考え方と実践能力を備えた歯科医を育てることを志向している.このプロジェクトは立ち上がったばかりで,まだ実効は上げていないものの,「口腔育成」の理念に基づいてケアを受けた子供たちは,いずれ20歳になり,いずれ80歳になる.その時には8020は楽に達成されているはずである.

投稿者 菅原準二 : 17:39 | コメント (0) | トラックバック

全部読む |  1  |  2  |  3  |  4