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2007年04月23日

10.反対咬合の治療

不正咬合の矯正治療について,少し具体的に説明してみたい.まず最初に取り上げるのは「反対咬合」である.これは俗に受け口と呼ばれ,文字どおり上下の前歯が通常とは反対にかんでいる状態を表している.程度がひどくなれば,前歯で咬み切れない,発音がうまくできない,唇が閉じにくいなどの機能的な障害を伴うようになる.

反対咬合の治療に際しては,顎骨の不調和の有無を見極めることが重要だ.それによって治療の難しさや進め方が異なるからである.

まず,顎骨に問題がない場合は,治療は比較的容易である.前歯が生える時に何らかのきっかけで方向が変わり,反対咬合になった可能性が高いと考えられるからだ.このタイプに属する乳歯の反対咬合は,前歯の交換期にかなりの割合で自然に改善する.治療法としては,主にマルチブラケット装置(個々の歯の表面に接着剤でつける金属製やセラミックス製の数㍉角の小さな装置)という口の中の装置だけを用い,形状記憶合金などでできたワイヤーの弾性を利用して上の前歯を外側に動かす方法が一般的だ.しかも,短期間で改善し,再発の危険性も低い.子供の場合には,思春期前の第1期治療だけで良い結果が得られ,思春期後の第2期治療を省略することも少なくない.

一方,上顎が小さい,下顎が大きいなど,顎骨に問題がある反対咬合は「下顎前突」とも呼ばれ,その程度がひどくなるにつれて治療の難しさも増す.遺伝的傾向が認められることが多く,乳歯から永久歯に代わる時に自然に良くなることはまずない.子供の場合には,第1期治療において,口の中だけではなく外につける装置も併用して,顎骨のバランスを整えながら反対咬合を改善する方法がとられる.もし,その後の成長観察期に再発した場合には,第2期治療においてマルチブラケット装置を用いて細部にわたる修正が行われる.なお,患者さんには敬遠されているが,第1期治療で用いられる口の外につける装置としては,上顎の成長を促すための前方けん引装置(上顎を前に引き出すようなゴムの力を伝えるキャッチャー・マスク様の装置)が効果的である.下顎骨の成長を抑えるために用いられていたチンキャップ装置(下顎を後退させるようなゴムの力を伝える帽子型の装置)は,以前ほどは使われなくなってきている.また,顎骨の不調和が極めて著しく,「顎変形症」の域に達している子供に対しては,あえて第1期治療は行わず,顎骨の成長が停止するのを見届けた上で,外科手術によって上顎を前に出したり,下顎を後退させるなどの「外科的矯正」を行うのが確実な方法だ.

投稿者 菅原準二 : 16:56 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月22日

11.上顎前突の治療

「上顎前突」とは俗に言う出っ歯のことで,上の前歯が突出したかみ合わせのことを意味する.異常が一目で分かる反対咬合と異なり,上顎前突は前歯の突出の程度によって正常咬合と区別するため,程度がひどくなければ患者さん自身が異常を認識することは難しい.

上顎前突は,①顎骨には異常がない,②上顎骨が大きい,③下顎骨が小さい- という三つのタイプに大別されるが,それぞれのタイプによって治療の進め方が異なる.

まず①の場合,子供の患者さんに対してはヘッドギアと呼ばれる顎外固定装置(首や頭の後部を支えにして上顎の大きゅう歯を後方移動させるようなゴムの力を伝える装置)を短期間(半年前後)用いた後,マルチブラケット装置によって上の歯を奥歯から順に後退させる第1期治療が行われる.その後の安定性はおおむね良好で,第2期治療を省略することも少なくない.一方,成長が止まった患者さんに対しては,そのような方法では効果が望めないことから,通常は,犬歯の後ろにある左右の小きゅう歯を抜いて隙間を設けた後に,マルチブラケット装置を用いてその隙間に向かって前歯を後退させる治療が行われる.

次に,②上顎骨が大きいタイプの場合,子供については①のタイプと同様にヘッドギアを最初に用いる.しかし,その目的は大臼歯の後方移動だけではなく,上顎骨全体の成長を抑制することであり,比較的長期間(1〜2年)を要する.そして,顎骨のバランスが整ったところでマルチブラケット装置を用いてかみ合わせの調整がなされる.その後,成長などに伴って後戻りを生じることもあることから,第2期治療を考えておく必要がある.成人に対しては,通常は①のタイプと同様の治療が行われるが,程度が著しい場合には「外科的矯正」によって上顎骨全体あるいは前歯部を一塊として後退させる必要がある.

最後は,③の下顎骨が小さく,相対的に上顎前突を示すタイプである.子供の場合,第1期治療で機能的矯正装置(下顎骨の成長を促すためのプラスチックとワイヤーで作られた装置)という取り外し可能な装置が用いられることが多い.それ以後は②のタイプと同様の処置になるが,下顎骨の残りの成長を有効に利用するために,第2期治療を早めに開始することもある.また,年齢に関係なく,下顎骨が著しく小さな場合には,舌根が沈んで上気道が閉ざされ「睡眠時無呼吸症候群」という睡眠障害を伴っていることもある.その様な患者さんに対しては,「外科的矯正」だけではなく,最近では「仮骨延長法」(下顎骨を切り離し,一定の期間をおいてから骨片を機械的に牽引延長する方法)によって下顎骨を大きくする技術も導入されている.

投稿者 菅原準二 : 16:57 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月21日

12.叢生の治療

「叢生(そうせい)」とは,歯が草むらのように入り乱れて並んでいる状態を表現した専門用語で,俗に乱杭歯(らんぐいば)とも呼ばれ,八重歯もその一種である.これまで述べてきた反対咬合や上顎前突など,上下の顎骨の不調和による不正咬合とは異なり,「叢生」は顎骨と歯の大きさの不調和から生じる歯列の不正である.「叢生」の問題点は,程度がひどい場合には,虫歯や歯周病を誘発するばかりでなく,一旦それらを患うと治療に支障をきたし,進行を食い止めることが難しくなることだ.「叢生」の治療法について述べる前に,その背景に少し触れておきたい.

人類の祖先が地球上に現れてから4〜5百万年,現代人につながるホモ・サピエンスが出現してからでも15万年が経過した.そもそも猿人や原人の顎骨には,32本の永久歯が整然と並ぶゆとりがあったが,現代人においてはその様な人は少なく,第三大臼歯(親不知歯)を除く28本すら並びきらなくなっている.軟食や高カロリー食など現代食文化の影響を受けて,顎骨が小さくなっているとも,歯が大きくなっているとも言われている.事実,私たちの学校歯科健診データでも小学生の30%,中学生の40%,高校生の50%に「叢生」が認められている.

 「叢生」の治療法は,大きく分けて二つしかない.「叢生」を三人がけのソファーに四人も五人も座っている状態に例えれば,ソファー(顎骨の歯槽部)を大きくして全員が座れるようにするか,あるいは座る人数(歯の数)を制限するかのどちらかである.前者については,拡大装置(ワイヤーの弾性やネジなどを利用して歯列の幅や奥行きを拡げる装置)を用いて,第三大臼歯を除く全ての永久歯を収容できるようにする方法が代表的である.後者には,いずれかの永久歯(上下の第一小きゅう歯が最も多い)を抜いて,残りの永久歯をマルチブラケット装置によって整然と並べる方法がとられる.どちらを選択するかは,「叢生」のひどさばかりでなく,顎骨や口元のバランス,患者さんの年齢-などを考慮した専門的な判断に委ねられる.

「叢生」の第1期治療(思春期前)では,拡大装置などを用いて歯槽部を大きくする治療法を優先し,永久歯を抜くことはできるだけ避けるようにしている.一方,第2期治療や成人矯正においては,一般的には抜歯の可能性が高くなる.しかし,前にも触れた「仮骨延長法」などの先端技術を利用することによって,成人の顎骨であっても大きくすることが可能になりつつあることから,将来は抜歯をしない「叢生」の治療が当たり前になるかも知れない.

投稿者 菅原準二 : 16:58 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月20日

13.顔面非対称の治療

厳密に言えば,顔が完全に対称形をしている人はいない.ここで言う「顔面非対称」とは,下顎骨が明らかに左右どちらかに曲がっていたり,あごの筋肉の大きさが左右で著しく異なっていて,顔が非対称形を呈している患者さんのことを指している.口の中では,下顎骨のゆがみや偏りに一致して,下顎の歯列全体が左右どちらかにずれたかみ合わせをしているのが一般的な特徴である.しかも,これらの症状は反対咬合や上顎前突など,他の不正咬合と複合している場合が多い.「顔面非対称」においては,見かけ上の問題もさることながら,非対称度が強くなるにつれて「顎関節機能障害」(顎関節症の一種で,口の開け閉めの際に痛みがあったり,ガクガクとかボキボキという雑音がする,口が開きにくい- などが主症状)を伴う頻度が高いことが最近の臨床研究で明らかになっている.

私たちの学校歯科健診データでは,軽度のものまで含めれば実に約20%もの児童生徒に「顔面非対称」が認められている.「顔面非対称」をここであえて取り上げた理由は,発症頻度が高いこと,顎関節機能障害との関連性が疑われること,見過ごすと治療が大がかりになる可能性があること - などによる.

「顔面非対称」の原因は様々で,①先天性異常,②出産時の外傷,③後天的な異常成長,④片側でのそしゃく癖,⑤かみ合わせの不調,⑥顎関節機能障害- などが挙げられている.「顔面非対称」の治療は,これらの原因を考慮して決定する必要がある.まず,最初の①②③が原因の場合,下顎骨の左右の大きさや形が異なるだけでなく,上顎骨や頭の骨にまで変形が及んでいることが多い.子供の頃に成長が遅れている部分を大きくする試みがなされているが,未だ一般的ではない.現在のところ,顎骨の成長が終息するのを見届けてから「外科的矯正」によって改善するのがより確実な方法だ.

一方,残りの④⑤⑥が原因と思われる「顔面非対称」は発症頻度が比較的高く,かつ早期に対応することで抑制および予防することができるタイプでもある.これらの原因の中で,最近注目されているのが,成長期に発症した片側性の顎関節機能障害が「顔面非対称」を引き起こすのではないかという学説である.下顎骨の成長は下顎頭(下顎骨の後上端に相当し顎関節の一部を構成)の軟骨部で最も旺盛である.下顎頭を保護するクッションのような役目を果たしている関節円板が,何らかの原因でずれたり損傷を受けて顎関節機能障害をきたすと,片側の下顎頭の成長だけが劣ってしまう危険性があるからだ.

早期に対応するためには,学校歯科健診でのスクリーニングが重要である.

投稿者 菅原準二 : 17:37 | コメント (0) | トラックバック

2007年04月19日

14.学校歯科健診

平成七年から,学校保健法の一部改正に伴い,従来の検査項目に「歯列・咬合(こうごう)・顎(がく)関節」が新たに加わった.

日本学校歯科医会の指針では,「歯列・咬合」の健診にあたっては,将来,口の機能に重大な支障をもたらす恐れのある不正咬合をスクリーニングすることとし,かつ,それが矯正治療の勧告や誘導にならないように注意すべきであるとしている.

学校歯科医は,このような指針に従って健診をしているが,将来,重大な支障をきたすか否かの判断には,高度の専門的能力が要求される場合もあるため,健診結果にバラツキがあることが指摘されている.このような問題の解決を支援するために,日本矯正歯科学会・学校歯科保健委員会で協議を重ねている.

また,保護者には不正咬合と虫歯の健診結果が一緒に知らされている場合が多いので,不正咬合の健診結果も治療勧告のように思われている可能性がある.では,それがなぜ治療勧告に結びつかないように注意すべきなのだろうか.これには「顎変形症」および「口唇裂・口蓋裂」以外の矯正治療に健康保険が適用されていないという事情が配慮されているようだ.矯正治療への健康保険の給付については,現在,厚生省および学識経験者を中心に研究組織を構成して検討がなされている.

さて,今年も学校歯科健診の季節がやってきたが,その結果,歯並びやかみ合わせに“異常あり”という知らせを受けた場合,どうすべきかについて少し述べておきたい.

最も大事なことは,“異常あり”とされたかみ合わせには,どのような問題点が含まれ,どのようなリスクが考えられるのかについて詳しく知ることである.そのためには,①かかりつけ歯科医(一般歯科医)の診察を受け,必要があれば矯正専門医や歯学部付属病院を紹介してもらう.②特定のかかりつけ歯科医がいなければ,歯学部付属病院で診察を受け,必要に応じて矯正専門医を紹介してもらう.③直接矯正専門医の診察を受ける- などの選択肢がある.ただし,矯正専門医不在の地域では,一般歯科医が矯正専門医と連携して診療にあたっている場合もあるので,かかりつけ歯科医に相談してみるとよい.また,医療機関によって初診料や相談料に違いがあるので,事前に確認しておくことが必要だ.

さらに,矯正治療を受ける際の注意点として,治療方針や治療費などについて詳しく説明を受け,十分に納得した上で治療を受けることが大切である.昨今ではインフォームド・コンセントやセカンド・オピニオン(他医の意見)を求めることは「患者さんの権利」として認められており,誰にも遠慮はいらない.

なお,日本矯正歯科学会ではホームページを開設し,全国の認定医名などを公開しているので,参考にされるとよい.

投稿者 菅原準二 : 17:38 | コメント (0) | トラックバック

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