2007年12月07日
第15報 オランダでの外科矯正シンポジウム(BSSO)
2007年11月29日と30日にオランダのハーレムで開催された2007 Biennial Symposium Surgical Orthodonticsにおいて講演をしてきました。ハーレムと言えばニューヨークを思い浮かべるかも知れませんが、ニューヨークのハーレムはHarlemで、オランダのハーレムはHaarlemとスペルが少し違いますが、ニューオークのハーレムの語源になっているとのこと。ハーレムはアムステルダムせいの郊外にある閑静な町で、聖バフォ教会,グローテ・マルクト広場,テイラー美術館など,主な観光名所は徒歩で数分の所に集中しています。ハーレムのかつての繁栄ぶりは、空に向かってそびえ立つ聖バフォ教会から容易に想像されます。その迫力はかつて訪れたことのあるケルンの大聖堂に匹敵します。図1は私が泊まったホテルのカーテン越しに撮影した教会の写真です。教会内部に設置された巨大なパイプオルガンにも驚かされました(図2) 。
さて、BSSOはオランダの外科矯正チームが中心になって隔年開催されています。今回は、私の長年の友人で、このチームに関わりのあるDr.Joop Drenbosの招きによるものです。「包括歯科」「CBCTを用いた診断」「治療計画の立案」「術前矯正」「非外科的治療」「顔面非対称の治療」「開咬を伴ったLong faceの治療」に関する7つのセッションあり、私はこのうちの3つのセッションでSurgery First、SASによる開咬の治療、成長期/成人期の下顎前突治療についてそれぞれ30分ずつ話をさせていただきました。
私以外では、Dr. G William Arnett、Dr. Vincent Kokich、Prof. Ravi Nanda、Dr. James Mah、Dr. Monica Palmerなどのビッグネームが講演者として招待されていましたが、彼らとはもう何度か他の学会やシンポジウムでも顔なじみになっており、その分だけリラックスした気分で講演をすることができました。それぞれ興味ある内容でしたが、とりわけDr. Palmerの「外科矯正治療計画における失望(Disappointments in Orthognathic planning)」と題した講演が印象に残りました。顎変形症の外科矯正治療においては手術失敗もさることながら、治療計画を立てる段階での失敗が見逃せない事実として存在するという問題提起でしたが、私も同じ思いを抱いていただけにとても納得できる内容でした。彼女はベルリンで開業している矯正歯科医で、
外科矯正を含む包括歯科を中心に診療をしていますが、同時にプロの画家でもあります。顎変形症の治療では、かみ合わせだけではなく容貌も扱うため、正解が分からない中で治療ゴール設定を強いられることから、術者にはスキル以外に芸術的センスが要求されます。患者の失望の多くは容貌に向けられることから、彼女の問題提起はいかにも芸術家らしい“ものの見方”を感じさせるものでした。
投稿者 菅原準二 : 14:32 | コメント (0) | トラックバック
2007年11月30日
第14報 第7回インプラント矯正研究会セミナー
インプラント矯正とは、各種インプラントを歯を移動するための固定源に利用するという画期的な治療法を意味します。インプラント矯正を歯科臨床において適切に定着させるため、当時インプラント矯正を手掛けていた臨床医が中心になって、2000年にインプラント矯正研究会を設立しました。そして情報交換の場として年1回のセミナーを10年限定で開催することにしました。当時、矯正用固定源に応用されていた材料はサンキン社製のミニインプラント(K1)とミニプレート(SMAP)しか販売されていなかったことから、サンキン社に事務局を置いて第1〜5回セミナーを開催しました。その後、サンキン社以外の製品も販売されるようになったことから、昨年から事務局をカノミ矯正・小児歯科クリニック(姫路市)に移して第6回セミナーを開催しました。そして、今年から当院SAS矯正歯科センターに事務局を移し、残り4回のセミナーの企画運営に当たることになりました。
今年度の第7回セミナーは、2007年11月13日に笹川記念会館(東京都)において開催しました。折しも、厚労省および学会から、現在市場に出回っているミニスクリューやミニプレートを矯正用固定源として用いることは目的外使用であることからその適用に当たっては患者の承諾が必須であることと、商品宣伝や商社主催セミナーを自粛するようにという指導がありました。研究会世話人の一部からもセミナーを見合わせてはどうかという意見も出されましたが、本セミナーは最初からコマーシャルを排し、学術的・臨床的な立場を貫いてきたことから、自粛の対象には当たらないと判断しました。
今回のセミナーでは、原点に立ち返り「インプラント矯正を安全かつ確実に行うために」という主題を設けました。高木多加志先生(東京歯科大学)による「インプラント矯正の医療としての現状」という基調講演に引き続き、Soon Yong-Kwon先生(ソウル)・植木和弘先生(広島市)「ミニスクリューの植立と矯正歯科治療」、長坂浩先生(宮城県立こども病院)・菅原準二(仙台市)「ミニプレートの安定性と治療メカニクス」、本吉満先生「失敗しない埋入方法と効率的な歯の移動」という講演がありました。さらに、初の試みとして秋葉順子先生{東京歯科大学}、諸靖子先生{仙台市}、池森伸江先生{名古屋市}による「歯科衛生士によるインプラント矯正のメインテナンス」と題したパネルディスカッションを催しました。貧乏な研究会で十分が謝礼をお支払いできませんでしたが、講師の皆さんは快く情報提供をしてくださいました。ひたすら感謝するのみです
参加人数は予想を上回る150名で、会議室が最後列まで埋まるほどの盛況ぶりでした。いわば逆風とも言える状況でのセミナー開催でしたが、インプラント矯正への関心が依然として衰えていないことを知らされるとともに、インプラント矯正が日常臨床の中で確実に定着しつつあることを感じさせられました。
投稿者 菅原準二 : 10:28 | コメント (0) | トラックバック
2007年11月10日
第13報 チャイルドライフ支援ボランティア講座
10月28日に、私が関わっているNPO法人ワンダーポケット(http://www.w-p.jp/)主催による2007年度のボランティア講座が仙台厚生病院・海老名ホールで開催されました(図1)。本講座は「すべての子どもたちに命の輝きを」というワンダーポケットの理念に基づくNPO活動の一環で行われているものです。病気や障害を抱えた子どもへの支援だけではなく、その兄弟姉妹やご両親への支援をも視野に入れたボランティアを養成することが目的です。
そのためには、現代に生きる子どもを取りまく家庭および社会環境などの問題点についても情報提供する必要があることから、チャイルドライフ・スペシャリスト、小児科医師、臨床心理士、心理学者など、ワンダーポケットの役員を中心として多彩な講師陣で組まれています。今年は、「実践に役立つチャイルドライフ支援の基礎知識2007」と題して、以下のような4名の講師による講義が行われました(図2)。いずれもインパクトのある内容でした。
1.足立智昭先生(宮城学院女子大学)「病気の子どもの親・家族の気持ち、サポート必要性について」
2.田沢雄作先生(国立病院機構仙台医療センター)「病気の子どもに必要なもの -安静そして人間コミュニケーション-」
3.工藤亜子先生(東北大学病院)「子どもの心理療法 –遊戯療法を中心として-」
4.藤井あけみ先生(国立がんセンター中央病院)「寄り添う大人になるために」
投稿者 菅原準二 : 11:46 | コメント (0) | トラックバック
2007年10月20日
第12報 第89回アメリカ口腔外科学会での講演
5月以来、久々の外国講演でしたが、ハワイで開催された第89回アメリカ口腔外科学会に出席してきました。今回は、アメリカだけでなく、日本と韓国を交えた初めてのジョイントミーティングでしたので、日本からも多くの口腔外科医が参加しておりました。7-8日に東京でDr. PancherzによるHerbst applianceのセミナーに参加して、その足で成田からホノルルに発ちました。口腔外科学会ですから、私のような矯正歯科医の参加はほとんどない訳ですが、今回出席した理由は、ワシントン州立大学口腔外科のDr. Jessica Leeからの依頼で、二人で「Skeletal Anchorage System: Clinical Protocols for Surgeons」というテーマでミニレクチャーをしようというお誘いを受けたからです。美しい韓国系アメリカ人の女医さんなので断れませんでした(図1)。
学会でのミニレクチャーの経験は初めてでしたが、比較的小さな会議室でプレゼン用のスクリーンを取り囲むように机と椅子が配置され、20名ほど座れるようになっていました(図2)。ミニレクチャーへの参加者は、学会参加費(約600ドル:高いですね、でもアメリカの学会はいずれもこのような額です)以外に1レクチャー毎に120ドル支払って申し込むというシステムです。Dr. Leeによれば、通常は、定員の半分も出席すればOKとされているそうですが、幸いにも私たちの部屋は満員でした。出席者はほとんどアメリカの口腔外科医でしたが、このことからもアメリカにおけるインプラント矯正(TADs)への関心が矯正歯科医だけではなく、口腔外科医においても高まっていることがうかがい知ることができました。
レクチャーは全体で2時間でしたが、最初の1時間でDr. Leeがインプラント矯正のレビューも含めて一般的な話をして、私は残りの1時間を使ってミニプレートを用いたSAS治療で何ができるかを具体的に紹介しました。Dr. Leeのマシンガン・トークに対して、私のジャパナイズド英語はとても聞き取りにくかったとは思いますが、沢山の質問を浴びせられました。質問の多さは、レクチャーの理解度およびインパクト度と比例するので、とりあえずハワイまで来て話をした甲斐があったと言うものです。
その夜は、Dr. Leeと私、それに医療チーム・パートナーの川村仁先生(東北大学・顎顔面外科)と長坂浩先生(宮城県立こども病院・口腔外科)も加わり、4人で夕日に映えるワイキキビーチとダイヤモンドヘッドが一望に見渡せる高層階のレストランで時間が経つのも忘れるほど楽しくディナーを頂戴しました(図3)。しかもDr. Leeのおごりで。でも、前菜に生のMiyagi Oysterが用意されていたのにはビックリ、さらにDr. Leeはまだしも、それを長坂先生が注文したのにもビックリ。何もワイキキまで来て、宮城の生牡蠣を食べなくとも良さそうなものを・・。
図3 レストランからの眺望
投稿者 菅原準二 : 10:11 | コメント (0) | トラックバック
2007年08月12日
第11報:ある再治療症例の治療を終えて(2)
再治療とは何かについては第3報(2007年2月23日)で詳しく述べましたので、知りたい方はそちらをご覧下さい。ここでは、最近治療を終えた再治療例を紹介します。このクライアントをMさんと呼ぶことにします。きっかけは顎関節症状でした。その治療を求めて近くの病院歯科を訪れたところ、かみ合わせの異常を指摘され。紹介されて私のところにやってきました。Mさん(22歳女性)のお話しによれば、小学生の頃に関東の某大学歯学部附属病院矯正歯科において反対咬合の本格的治療を受けた経験があるとのことでした。図1は、初診時に撮影したお口の写真ですが、前歯部開咬と反対咬合を呈していました。上下顎の第一小臼歯が4本なかったことから、マルチブラケット装置による治療がなされたことが想像できました。また、X線写真から上下顎切歯の歯根吸収が著しいことも分かりました。治療前の状態が知りたくてMさんにお願いしましたが、残念ながら、もう10年以上前のことなのでその大学病院に資料は保存されていないとのことでした。
図1 再治療開始直前の状態
子どもの頃に矯正治療を受けて、成人してから再治療を余儀なくされた症例の多くに共通することですが、例え永久歯列が完成していても、まだ顎の成長が残っている時点でマルチブラケット装置による仕上げの治療なされると、顎成長に伴ってこのような「再発」が生じることがあります。舌などの悪習癖を伴い、残余成長が大きければ大きいほど再発のリスクが高まります。
Mさんの再治療ですが、明らかに上顎骨が小さく、逆に下顎骨が大きかったことから、外科的矯正治療の適応症と診断しました。Mさんも私たちの提案をよく理解し、受け入れてくれました。そこで、診断後直ちにマルチブラケットを装着して、1ヵ月後には上顎骨の前下方移動術(Le Fort I 型骨切り術)と下顎後退術(下顎矢状分割術)を行いました。手術後約1ヵ月経過した時点から術後矯正治療を開始しましたが、歯は急速に移動し約10ヵ月で治療ゴールを達成しました。図2はブラケット装置を撤去した直後の状態を表しています。
図2 ブラケット装置撤去時(総治療期間11ヵ月)
術後矯正によって上下顎切歯の傾斜は適正化され、いわゆる機能的咬合が具備すべき条件をクリアすることができました。切歯の歯根吸収の進行も認められませんでした。また、顔写真を掲載できないのが残念ですが、顎矯正手術によって顎間関係は著しく改善され、かつ治療前はスマイル時に上顎切歯が見えなかったものが、治療後にはきれいなディスプレイに改善されました。
さて、ここで触れておかなければならないことは、治療後の安定性についてです。巷でよく耳にすることは、矯正治療後に「後戻り」や「再発」する例が多いということと、それが通り相場になっていることです。これは、大変不幸なことであると言わざるを得ません。なぜなら、適切な時期に、適切な診断と適切な治療が行われれば、後戻りや再発というリスクは最小限に抑えられるからです。Mさんの場合は、前述したように、治療時期に主たる原因があったと思います。顎成長が終息する高校生以降の時期に仕上げの治療を行っていれば(その場合、仕上げの治療として外科的矯正治療が必須だったとは思われますが)、結果は違ったものになっていたでしょう。
また、Mさんの歯列と咬合の安定性についてですが、まずは保定が重要です。保定装置は、上顎はラップアラウンドタイプのリテーナー(最初の1年が全日使用、以後は夜間使用を指示)、下顎には5〜5のリンガルボンディドリテーナーを装着しました。これらの保定装置を少なくとも5年間は使っていただくことになります。本例の場合、再発の最大リスクファクターと思われる顎成長については考える必要がないので、他の成人患者さんと同様に良好な術後経過を辿るものと予想しています。
