2009年12月04日
第18報 第19回日本顎変形症学会シンポジウムでの講演(2009年6月4日)
矯正治療における難しい問題の一つとして、例えば小学生の時点で下顎が極端に大きかったり、逆に小さ過ぎたり、あるいは明らかな非対称(側方偏位)を伴っている患者さんにどのように対応したら良いのかということがある。すなわち、顎骨の大きさや位置に著しい不調和があり、外科手術(顎矯正手術)の適応になる成人患者さんのことを顎変形症(保険用語)と総称しているが、その子ども版の問題です。実は、その対応法は医療施設によってまちまちで、コンセンサスが得られておりません。
去る6月4〜5日に日本顎変形症学会(主管:東北大学顎顔面外科、大会長:川村仁先生)が仙台国際センターで開催されましたが、その問題に関するシンポジウム「成長期の重度骨格性不正咬合への対応」が行われた。話題提供者は、鹿児島チーム(黒江和斗先生、吉田雅司先生)、東北大学チーム(私、川村仁先生)、東京医科歯科大学チーム(鈴木聖一先生、黒原一人先生)、昭和大学チーム(槇宏太郎先生、代田達夫先生)で、それぞれの考え方と実際の対応法が紹介された。
その結果、対応法は概ね二つに分かれた。すなわち、一方は、子どもの社会心理面や口腔機能に配慮して、顎の不調和が悪化することを少しでも抑制あるいは改善しようという目的で、顎成長をコントロールする治療(顎整形治療)や歯の移動を積極的に行うという考え方。もう一方は、顎整形治療の効果の限界を認識し、治療の確実性を優先して、顎成長が終息するまで成長観察を行った後に治療を開始するという考え方である。
私たちのチームは、例外を除いて、後者の立場をとっているが、その主な理由は以下のとおりである。
1) 現時点で、極めて重度の骨格性不正咬合に対する最も信頼できる治療選択肢は、顎成長終了後に適用する外科的矯正である。
2) 成長期においては、大きな下顎骨の顎成長を確実にコントロールする有効な手立てがなく、敢えて治療を行った場合、期待した効果が得られずに、治療が長期化し、かつ中途半端な結果に陥る危険性が高い。
3) 第一期治療(小学生の頃の初期治療)が患者自身の意思決定に基づいて行われるものでないことから、術者が良かれと思って施術した結果が、必ずしも患者満足に結びつかないこともあり得る。
4) 高校生以降まで問題点の改善を遅らせたとしても、口腔成育支援を継続的に行うことによって、社会心理学的問題が発生する可能性は低い。
5) 高校生以降になれば、患者自身が自律的に治療ゴールや治療オプションを選択することができる。
6) 高校生以降の治療では、顎成長という主たる再発要因がなくなることから、予知的な治療が可能になり、咬合の長期安定性が得られる。
最後の総合討論の部は、会場からの質問に答える形式で行われた。ところが、我々のチームに向けられた質問から判断すると、どうも「成長している間は、すべての不正咬合の矯正治療は行わない」と誤解された可能性が高いと思われた。それは、このシンポジウムのテーマが成長期の重度不正咬合を対象にしていたことから、それが前提になっていると思い、敢えてその主語を省いた形で話をしたからだろう。我々の場合、子どもの不正咬合で第1期治療の対象になるのは約90%で、積極的な治療を行わずに成長観察の対象になるのは残りの約10%であることを、ここで改めて述べておきたい。
投稿者 菅原準二 : 2009年12月04日 12:56
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