2007年05月10日
9.外科的矯正
不正咬合の中で,歯や歯列を支える顎骨(がっこつ)の形やバランスに問題があり,しかもその程度が特にひどい場合を「顎変形症(がくへんけいしょう)」と呼ぶ.その代表例には,下顎が著しく大きな下顎前突や,下顎が著しく小さな上顎前突がある.いずれも通常の矯正治療だけで改善することは極めて難しい.その様な患者さんの顎骨のゆがみや大きさを外科手術によって修正し,同時に矯正治療によって歯並びとかみ合わせを整える治療法のことを「外科的矯正」と言う.例外を除き,顔の成長が終了した成人に対して行われる.成長による再発を避けるためだ.また,顎骨の中や周囲には重要な神経や血管が走っていることと,顔に傷を残さないために口の中ですべての操作が行われることから,手術は特別のトレーニングを積んだ口腔(こうくう)外科医が担当する.そして,全体の診療は口腔外科医と矯正歯科医(専門医)との「チーム医療」で進められる.
顎骨の手術と言われても,今一つぴんと来ないかも知れないが,「外科的矯正」は以下のような手順で進められる.①検査結果に基づいて治療のゴール(設計図)を作成する.②ゴールにしたがって上下の歯並び(歯列のかたち)を矯正する.③特殊な手術器具によって顎骨を切り離す.④切り離した骨をゴールの位置まで移動して金属プレートなどで固定する.⑤安静にして骨が自然につながるのを待つ.⑥リハビリテーションを行って,そしゃく筋や舌などを新しいかみ合わせに順応させる.⑦かみ合わせの細部調整を行い,口の機能に問題がないことを確認して矯正装置を外す.⑧再発を防止する処置を施し,かみ合わせの管理を定期的に続ける.
手術時間は「顎変形症」のタイプによっても異なるが,下顎だけであれば1〜2時間,上・下顎骨の同時手術でも3〜4時間で終了する.全身麻酔で行われるため,手術に伴う痛みを感じることはない.また,低血圧麻酔を用いているため出血量も少なく,輸血が必要になることは極めてまれである.約3週間の入院を必要とするが,患者さんにとっての最大の忍耐は,手術後の約2ヶ月間は普通の食事がとれないことだ.
「顎変形症」の場合,容貌の問題はともかく,そしゃくや発音などに著しい機能障害を伴うことと,歯を失ったときに入れ歯などでの修復が非常に難しいことから,「咬合崩壊」に陥ってしまうリスクが特に高い.そのため,平成2年から「顎変形症」の「外科的矯正」に健康保険の給付が認められるようになった.
「外科的矯正」は,現代の矯正歯科では欠かすことのできない治療法になっている.
投稿者 菅原準二 : 2007年05月10日 16:55
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