2007年05月05日
4.放置すると
矯正歯科の必要性を理解するためには,不正咬合を放置した場合,将来どのような問題が生じるのかを知ることが早道である.このことに関連して,最近の学会で興味ある研究報告があった.
厚生省と日本歯科医師会が推進している「8020(ハチマルニイマル)運動」についてはご存じの方も多いと思うが,「80歳まで長生きして,健全な20本の歯を残そう」というキャンペーンである.東京都文京区歯科医師会で8020達成者(52名)のかみ合わせを調査したところ,達成者のすべてが顔面骨格のバランスに問題がなく,ほとんどが正常咬合(良いかみ合わせ)で,反対咬合は皆無であったことが明らかになった.
全国的な調査ではなく,対象者の口腔衛生知識が現在とは異なる世代であることなどから,これを普遍的な事実として受けとめるのは早計であるにしても,注目に値する.長期にわたって歯を健全に維持するためには,顔面骨格のバランスに問題がなく,かつ正常咬合を有していることが必要条件であることを暗示しているからである.
正常咬合であることによって,一本一本の歯に与えられた本来の機能を発揮することができるし,そしゃく時の食物の流れや唾液による自浄効果が高いことも明らかである.もちろん,歯ブラシで口の中を清潔にすることも容易である.また,顔面骨格のバランスが整っていることが,そしゃくや発音のために下顎を動かす筋肉(そしゃく筋)や,歯列を内外側から支える舌と表情をつくる筋肉(表情筋)の健全な働きと深く関連している.歯の長期維持のためには,システム全体が正しく機能していることが重要だ.
一方,不正咬合を放置した場合,特定の歯に必要以上の負担を強いることになるし,食物や唾液の流れにも乱れが生じて自浄作用が妨げられ,歯や口の清掃もままならないことが多い.さらに,歯並びやかみ合わせに乱れがあるために虫歯や歯周病などの誘因にもなるし,わずらった場合に正しく治療することも難しくなる.さらに,顔面骨格のバランスに著しい不調和をともなっていれば,そしゃく筋,舌,表情筋に正常な働きを求めることは無理な注文である.不正咬合の程度,虫歯や歯周病に対する感受性にもよるが,歯を駄目にしてしまうリスクが高いと考えられる.
「歯が駄目でも義歯(入れ歯)があるじゃないか」という言葉をよく耳にする.本質的には同じ意味なのに,「足が駄目でも義足があるじゃないか」とは誰も言わない.新時代に向かって,このあたりの健康意識やパラダイムを変えて行く必要があろう.
投稿者 菅原準二 : 2007年05月05日 15:13
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